記憶頼り

 自閉症の方の特徴のひとつに、想像力の苦手さがあるということは、よく言われていると思います。

 そして、何らかの事や、行動に固執することが多いのは、この想像力の苦手さが原因のひとつではないかと言われています。

 自身が経験し、よく理解している事や、行動を行うことで、安心を得ている(というよりは不安を取り除いているのでしょうか)ということがあるようです。

 HEROESを利用されている方の中にも、上記のような特徴をお持ちの方がいらっしゃいます。

 この方は、あらゆる場面(食事、トイレ、休憩、作業、帰りの準備、送迎車の乗降etc.)において、ご自身の決まったやり方をお持ちです。

 そして、その行動は極めて細かいところまでパターン化されているように見受けられます。

 例えば、普通に行えば1分もかからない醤油のたれびんのふたを閉める仕事を、この方は30分以上かけて行います。

 たれびんの置き方、ふたの置き方を気にし、ふたを閉めては外し、また最初から。全部終わったかと思うと、終わった仕事を10分以上眺め、再度たれびんを一つ一つ取り出しては、それで作業机の決まった位置何ヵ所かをトントンと叩く…

 

 この時点で、この方が不安を抱いていることは想像できますが、もう少し深刻な問題は、このような細かい行動の全てを記憶のみに頼って行っているということではないかと思います。

 おそらく頭の中は細かい記憶でいっぱいになっているのでしょう。

 そしておそらく、その記憶を留めておくには相当な労力がいるでしょうし、さらにその記憶を随時引っ張り出して、実行しなければなりません。

 とてつもなくしんどいことを常に行っているのだと思います。

 

 ずっと頭に留めておく必要のない記憶を何とか、別のもの(視覚的なツール)に置き換えて、安心して忘れられる状況を提供したいと思うのですが、、、

 

 私たちは、例えば加湿器の水の入れ方を忘れてしまっても、説明書を見ればわかるということを当たり前のように知っています。だから安心して、忘れることができます。

 

 しかし、私はそのことを、この方に伝えられていないのです、、、

 

牧得生